コンディションが悪い日に、ビッグキッカーを飛ぶかどうか

コンディションが悪い日に、ビッグキッカーを飛ぶかどうか 滑りの話

風が出ている。雪が降っている。パークのクローズまで時間もない。

それでも、せっかく来た日だから飛びたい。そういう場面、ありませんか。

飛べるか飛べないかで言えば、たぶん飛べる。スピードも足りそうだし、サイズも過去に経験がないわけじゃない。でも、なんとなく嫌な感じがする。その「なんとなく」をどう扱えばいいのか分からないまま、リフトに乗ってしまう。

ビッグキッカーの前で立ち止まる感覚は、けっこう分かるつもりでいます。

今回、トムズスポーツのチャンネルで、ビッグキッカーを飛ぶ企画の撮影がありました。そのやり取りの中に、コンディション判断の話がかなり生々しい形で出てきていたので、記事にしておきます。

「僕だったら今日は飛ばない」と言い続けた人がいた

この企画、飛ぶ本人ではなく、その場にいた側の発言がずっと引っかかります。

パークをよく飛んでいて、シェイプ(キッカーの整備)にも関わっている人が、飛ぶ前にこう伝えています。

今日の気温、雪質、そして風の強さ。これを全部総合的に判断した結果、自分だったら今日は絶対に飛ばない。回しもしない。

しかもこれ、一度だけの発言じゃありません。スピードチェックの前にも、その後にも、実際に飛ぶ直前にも、同じことを繰り返し言っています。何度でもお伝えしときますけど、という言い方で。

面白いのは、これが「やめとけ」という止め方になっていないことです。むしろ、やる気を出してもらうために情報を渡している、という言い方をしています。情報はあった方が安心でしょう、多い方がいいと思うから、と。

「飛べるか」と「飛ぶべきか」は別の話

ここが一番のポイントだと思っています。

技術的に飛べるかどうかと、今日それを飛ぶかどうかは、別の判断です。

同じ動画の中で、飛ぶ側の人は過去にビッグキッカーを飛んだ経験があることを話しています。最大サイズは10ぐらい、12ぐらいのものを飛んでいて、フロントサイド3も打っていた。つまり、サイズだけ見れば未知の領域ではありません。

それでも「今日は飛ばない」という判断が出てくる。サイズの話じゃなくて、その日のコンディションの話だからです。

気温、雪質、風。この3つが揃って初めて、いつも通りが成立する。どれか崩れると、いつも通りのはずのアプローチがいつも通りにならない。

普通のスキー場ならクローズになるレベル

もう一つ、はっきり言われていた話があります。

普通のスキー場だったら、今日のこの風が吹いていたら、ちょっとクローズかなというくらいのコンディション。

これはかなり重い言葉だと思います。個人の感覚の問題じゃなくて、施設として閉める判断が出るライン、という話をしているからです。

さらに、途中で看板が裏返っていることに気づく場面があります。補強してあるのに裏返っている。だいぶレアなことらしくて、その場では「かなり不吉」という言い方をしていました。

風の強さを数字で測らなくても、看板の向きひとつで分かることがある。現場を見るというのは、たぶんこういうことだと思います。

現場の判断材料は、思っているより地味

コンディション判断というと、天気予報を見ることだと思われがちです。実際に現場で見ていたのは、もっと目の前の細かいことでした。

その場に旗があって、それで風を見ています。

今この瞬間は風がない。じゃあ行くか、となるんですが、そこで釘を刺されます。アプローチをし始めた瞬間に吹いてきたりもするから、そうなったらもう自分で判断してください、と。

風が「今ない」ことは、「これからもない」ことの保証にはならない。旗を見るのは出発前の一瞬だけじゃなくて、滑り出してからも判断が続くということです。

積もっていくアプローチ

雪が降っている日の話も出てきます。

さっき通ったコースには、もう雪がついている。だから同じラインを通れない。違うラインを通ったら、スピード感が変わる。

これ、地味ですが怖い話だと思いました。スピードチェックで一度当たりを取っても、その一本と次の一本でアプローチの状態が変わっている。スピードが全く出ない可能性もあるし、さっきより走る可能性もある、と両方の可能性が挙げられていました。

一回チェックしたから大丈夫、が成立しにくい日がある。

視界

飛ぶ直前、撮影しているカメラ越しにリップの先端が見えない、というくだりがあります。

雪の降りが強くなっていて、そのくらいの視界になっている。踏み切る場所が見えないというのは、かなりきつい条件です。

{video}

この記事の内容は、上の動画で話したことをまとめたものです。声のトーンや実例も含めて聞きたい方はこちらから。

それでも飛ぶ、という判断のしかた

ここまで散々「自分なら飛ばない」と言われた上で、実際にどう進んだのか。

スピードチェックは省かない

パークのクローズが3時で、行けてあと2本くらい。この状況だと、スピードチェックに1本使ったら、残りは実質1本になります。

それでも、スピードチェックは行っています。

しかも、「もういらないでしょスピードチェック、大丈夫です」という空気が出た場面で、返ってきたのは、何万回してもチェックはチェックだから、という言葉でした。飛ばないと結局わからない、とも。

本数が限られている日ほど、チェックを省略したくなる。そこを省かなかったのがこの日の判断です。

失敗した時に何が起きるかを、先に見えるようにしておく

これは印象的な工夫でした。

この日はリップに青いものが付けられていました。理由は、板が走らなくてリップを飛び出したときに、足りないのが一目で分かるから。

絶対にフラットに落ちるということがすぐに分かる。だから、その準備ができる。

失敗を防ぐ工夫ではなくて、失敗したことを早く知るための工夫です。

実際に飛んだ人の実感

スピードチェックを終えた本人の感想が、そのまま出ています。

行けるかなが半分、やられるかなが半分。ギャンブル、という言い方をしていました。

そして、やられたら会社が首になるかもしれない、家庭からも追放されるかもしれない、という話が続きます。守らなきゃいけないものがある側の判断です。

ここは技術の話じゃありません。同じ場面でも、失うものがどれだけあるかによって、飛ぶ・飛ばないの答えが変わる。それを本人も周りも分かった上で進んでいる。

飛ぶ直前には、足が震えている、とも言っていました。

他人の失敗を見てから、どう判断するか

飛ぶ直前に、別の人が同じキッカーに入っていく場面があります。

そして、その人はデコりました。届いてはいたけれど、そこで失敗しています。回そうとしていたようでした。

自分の番の直前に、目の前で失敗を見る。ここでの反応が現実的でした。

飛ぶ側は、実際やめといた方がいいですかね、と聞きます。返ってきたのは、自分もさっき一本入って、いつも通りのスピードで行って、やばいと思って途中で止めた、リップの上で、という話でした。

つまり、いつも通りのつもりで入っても、途中で「やばい」が発生している。それが同じ日の同じキッカーで起きている。

その上で、「大丈夫」と「僕だったら絶対飛ばない」が、同じ人から同じ場面で出てきます。

矛盾しているようですが、たぶんこれが正確なんだと思います。技術的に成立する可能性はある。でも自分の基準では見送る。この2つは両立します。最後に決めるのは飛ぶ本人だ、という前提が徹底されている。

「煽られたらやる」を、自分で分かっているかどうか

この日のやり取りで、もう一つ気になった部分があります。

ビビってるんですか、と言われた側が、ビビってはない、と返してから、いやめっちゃビビってますけど、と続けています。そして、そう煽られたらちょっとやる気を出さないといけない、と自分で言っています。

ここ、たぶん多くの人に当てはまります。

人に見られている状況、撮影されている状況、周りが飛んでいる状況。そういう場面では、自分の判断より場の空気が優先されやすい。

この日はさらに、飛ぶ本人がSNSで公言しているファンの山本涼さんの名前まで持ち出されて、そのブランディングを背負って、という文脈が乗っていました。企画者側は、飛ぶ本人の恐怖との戦いというよりも、山本涼と自分が戦っている感じだ、という言い方をしています。

自分がどういう言葉に弱いのか。それを本人が自覚しているかどうかは、けっこう大きい差だと思います。この日の場合、少なくとも本人は分かった上で乗っていました。

結果として、どうだったか

最後は飛んでいます。そして、届いています。

その場での反応は、素晴らしい、すごい、あれを届かしたら、というものでした。

ただ、この結果をもって「行けるじゃん」と言うのは違うと思っています。動画の中で繰り返されていたのは、判断としては飛ばないコンディションだった、という話です。結果が良かったことと、判断が良かったことは別に扱った方がいい。

うまくいったから正解だった、と後から上書きしてしまうと、次に同じコンディションに立ったとき、何を材料に決めるのかが残らなくなります。

まとめ

  • 飛べるかどうかと、今日飛ぶかどうかは別の判断。サイズの経験があっても、その日の気温・雪質・風で答えは変わる
  • 現場の判断材料は地味。旗、裏返った看板、リップの先端が見えるかどうか
  • 風が「今ない」ことは、滑り出してからもないことの保証にはならない。判断は出発後も続く
  • 雪が降っている日は、さっき通ったラインが埋まる。違うラインだとスピードが出ないことも、逆に走ることもある
  • 本数が限られている日ほどスピードチェックを省きたくなるが、飛ばないと結局わからない
  • 失敗を防ぐ工夫だけでなく、失敗したことを早く知る工夫がある(リップの目印)
  • 同じ場面でも、守るものがどれだけあるかで飛ぶ・飛ばないの答えは変わる
  • 煽られると判断が動く。自分がどんな言葉に弱いか、先に分かっておく
  • 結果が良かったことと、判断が良かったことは分けて考える

自分の場合はどうなのか

ここまで書いてきたことは、あくまで一般的な話です。

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