ヒールサイドで、ガガガガガとなる。
板が雪面を削るような音と振動が出て、思ったラインを走ってくれない。あれを消したくて、前振りにしたり、ハンマーヘッドみたいな硬い板に替えたり、ブーツを硬くしたり。そうやって道具を足していった人、けっこう多いんじゃないでしょうか。
僕もそう思っていました。ガガガが出るのはエッジのコントロールが下手だから、道具でカバーすればいい、と。
先日、雪山で前振りのセッティングを試す機会がありました。僕はそもそも前振りの経験がほぼゼロで、前振りにすると「なんとなくスキーっぽくなって、ターンが切れやすくなるのかな」というくらいのイメージしか持っていませんでした。
その場で言われたのは、まったく逆の話でした。
前振りにすると「エッジに圧がかからなくなる」
僕は最初、前振りにすると板が切れるようになる、ターンがしやすくなる、と思っていました。
そうではないそうです。
前振りにすると、エッジに圧がかからなくなる。だから楽になる。
これを聞いた時、意味が飲み込めませんでした。エッジが効かなくなるなら、余計に滑りにくくなるんじゃないのか、と。
でも、実際に試してみると分かりました。この日、最初は12/12のダックで滑っていて、その後で36/3の前振りに変えたんですが、思いっきり踏んでも止まらないんです。エッジにパワーが入っていかない。びっくりしました。
つまり、前振りにすると板が立ちにくくなる。エッジが雪に食い込みにくくなる。だからコントロールがすごく楽になる。
「ガガガ」が消えるのは、上手くなったからではないかもしれない
ここが、この日いちばん考えさせられたところでした。
そもそも、なぜガガガガガとなるのか。
車でコーナーを曲がろうとして、スピンし始めているのに、まだアクセルを踏んだりハンドルを切ったりしている。本当はアクセルを緩めればいいだけなのに、みんな耐えようとする。だから雪が崩れて、また掴んで、また崩れて。これを繰り返しているから、あのガガガガガという一定じゃない振動になる。
そう説明されました。
本来なら、ギリギリでグリップする「おいしいところ」を自分でコントロールしないといけない。でも前振りにすると、そもそもエッジに圧がかからないので、そのコントロールがすごく楽になる。
だから、ガガガが出なくなる。
出なくなった、という結果だけを見れば、上手くなったように感じます。でもその中身は、コントロールできるようになったからではなくて、コントロールを要求されなくなったからかもしれない、ということです。
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道具で足しているものが、実はチグハグかもしれない
さらに話を聞いていて、ああ、と思ったのがここでした。
カービングしやすい板というのは、本来エッジが立てやすくできています。それをわざわざ前振りにして、圧がかからない状態にしている。
分かりやすく言えば、1000馬力の車を買って100馬力で走っているような状態だと。
そして前振りにすると、そのぶんパワーがダウンします。だから今度は、ハンマーヘッドのような硬い板を使って、パワーのあるものを持ってこないといけなくなる。
やっていることがチグハグだ、というのはそういう意味でした。
なぜノーズを長くするのか
この日、僕は前足を1つ後ろにずらしました。ジャックセットバックのような形です。
そうするとノーズが長くなります。
ハンマーヘッドやアルペンボードのノーズが長いのはなぜか。圧をかけられる長さを長くして、コントロールできる範囲を増やすためだ、と説明されました。要はタイヤを大きくしているようなもので、楽をしている、と。
カービングが下手だから、ノーズをいっぱい長くしないとできない。だからわざわざ長い板に乗って、楽なカービングをしている。
逆に、ツインチップに乗って前振りにして、それでちゃんとターンできる人は本当に上手い、という話でした。コントロールができているということだからです。
コントロールができないから、ノーズを長くして、板を硬くして、前振りにして、ドラグしないように、と足していく。前振りにしないとドラグする、というのはよく聞く話だと思います。僕も聞いたことがあります。だから仕方なく前振りにしている人も多いはずです。
そこは責める話じゃないと思います。ただ、足していった結果が全体としてどこに向かっているかは、一度見てみてもいいのかもしれません。
前振りで転んだ理由と、その場で滑れるようになった姿勢
この日、僕はいつも通りのつもりで滑って、あっさり転びました。
理由はシンプルでした。
いつものダックのセッティングなら、エッジに圧がかかる。だから体をこういう風に使えば圧がかかる、という滑り方が成立します。YouTubeでよく見るような、あの形のターンです。
でも前振りにした瞬間、圧がかからなくなる。同じことをやっても、抜けてしまう。
そこで教わったのが、姿勢そのものを変えることでした。
お尻を落として、体を内側に入れて、膝を曲げる。自分では「これは考えられないくらいの姿勢だな」と思ったんですが、実際にやってみると苦しくないんです。普通に行ける。
椅子に座れるなら、膝は曲がる。それと同じだと言われました。
「膝を曲げろ」だけで終わる指導は違うかもしれない
ここで印象に残った話があります。
膝が曲がっていないから膝を曲げろ、と言うだけのコーチは三流だ、と。
これはけっこう強い言い方ですが、理由を聞くと納得がいきました。
椅子には座れるのに、滑っている時は膝が曲がらない。じゃあその「膝が曲がらない」のは何が原因で起きているのか。そこを教えられなかったら、コーチとしての意味がない、という話です。
僕がその場ですぐできたのは、たまたま僕の体が元々その姿勢を取れたからでした。実際、「トムズの体を見て、できそうだなと思ったから教えている」と言われています。できない人には、この教え方はしないそうです。
だから「これができない人はダメ」という話ではまったくないです。むしろ逆で、できない人にはできない理由が体の側にあって、そこに手をつけないまま「この形で滑るんです」と教えるのが問題だ、という話でした。
ここで言うフィジカルは、筋肉のことではないそうです。あの姿勢を無理なく作れるかどうか、という意味でのフィジカルです。
生徒側は、取れない姿勢をひたすら練習してしまう
これも刺さりました。
姿勢が取れない人に、その姿勢で滑れと言う。生徒さんはガチでその姿勢を練習する。でもできない。
必要なのは、姿勢そのものを練習することではなくて、その姿勢が簡単にできる方法を先に用意することじゃないか、と。
教える側は元々それができる体でやっているから、簡単にできてしまう。だから一般の人の感覚が分からない人のほうが多い、という話も出ていました。
その人の体がどうなっているかという前提を抜きにして理論を語ると、みんな鉄骨でできている前提の話になってしまう。機械なら同じ動きができますが、人はそうじゃない。
スノーボードの理論のほとんどはスピリチュアルになっている、という言い方をされていて、そこは強めの表現ですが、言いたいことは分かる気がしました。
この記事の内容は、上の動画で話したことをまとめたものです。声のトーンや実例も含めて聞きたい方はこちらから。
倒れるだけ、の中身
実際に滑る時にやっていることも教わりました。
まずは倒れるだけでいい、と。自転車に乗れる人がすぐ曲がれるのと同じで、スノーボードも同じだ、という説明でした。
ただ「倒れるだけでいい」と教えてくれる人がいない、というのはその通りだと思います。しかも、倒れるだけと教えてもできない人はたくさんいます。だから結局、体の側の話に戻ります。
そして倒れたままだと、曲がりが弱い。板と自分が落ちていくエネルギーが同じ方向になってしまって、起き上がるのが難しくなる。
そこで、板を立てて曲げる。ハンドルを切る。そうすると板は上に上がってこようとして、体は下に落ちようとするので、交差する。その結果、体が起き上がってくる、という説明でした。
寝ている時もこの動きをやっていて、自分が起き上がりたいタイミングで強める。そうすると下に落ちなくなって、体が戻ってくる。
ガガガが出る手前が「限界」だと分かる
前振りにした後でも、ガガガガガが出る場面はありました。
その時に言われたのが、それは今の雪に対する、そのセッティングと道具の限界の領域だということです。
かけすぎたらガガガが出る。その限界が分かったら、そのギリギリの手前まで持っていく。そこで体を起こす動きができるようになる。
つまり、ガガガをゼロにすること自体がゴールではなくて、ガガガが出る手前を自分で把握することのほうが中身がある、という話に聞こえました。
あと、スピードがないと起き上がれないので、スピードが弱いとその場ですぐ終わってしまう、というのも実際に体感しました。
荒れた雪でできないと、たぶんずっと同じところにいる
この日は雪が掘れる場所も多くて、ガバガバと引っかかってくる状態でした。
下手だと荒れた雪ではできない。だから綺麗なバーンでばかり練習したがるし、荒れてきたらやめてしまう。だから上達しない、という話が出ました。
ハンマーヘッドのような板に乗って、前振りにして、硬いブーツを履いている人は、こういう日は来ない。できないから、と。
これは自分にも心当たりがあります。いい状態でなら自分はできる、と知ってしまっていると、そうじゃない日は正直つらいです。
ただ、この話には続きがあって、「別にそれで頑張って練習した方がいいというわけでもない」とも言われていました。たまの休日に、楽しい気持ちで滑りたいのは当たり前です。そういう人はアイスバーンのようなスキー場に行けばいいし、それでいいと思う、と。
そこは救われた感じがしました。全員が荒れた雪と戦う必要はない。ただ、教える側は別で、こういう日にどう教えるのかという話は残ります。
「練習量が足りない」で終わるなら、変えていい
最後のほうで出ていた話も書いておきます。
うまくいかない理由を「お前は練習量が足りない」で片付けるコーチは、コーチとして三流以下だ、という話でした。
早く上手くなるためにお金を払っているのに、練習量が足りないと言われるなら、それはYouTubeのハウツーで十分になってしまう。しかも教わる時間より、YouTubeを見たほうが早いかもしれない、と。
やり方だけを教えるなら、本で十分だという言い方もされていました。やり方を教えてもできない人がいるから、お金を払って習いに来ている。そこに対応できないと意味がない、ということです。
だから、1回か3回教わって滑りが変わっていないと思ったら、すぐコーチを変えたほうがいい、とも言っていました。時間もお金ももったいないからです。
ここは、教わる側が悪いという話ではまったくないと思います。むしろ、変わらなかったのは自分の努力不足だと抱え込まなくていい、という話として受け取りました。
同時に、この日の話で印象的だったのは、教える側もレベルアップしていこう、という方向で終わっていたことです。実績のある人がまだ勉強していると言うなら、下の世代はもっと伸びしろがあるはずだ、と。
まとめ
- 前振りにすると、エッジに圧がかからなくなる。だからターンが切れやすくなるのではなく、コントロールが楽になる方向に働く
- ヒールサイドのガガガは、雪が崩れて掴んでを繰り返すことで起きる。曲がりきれずに耐えようとするほど出やすい
- 前振りでガガガが消えるのは、上手くなったからではなく、圧がかからずコントロールを要求されなくなったからかもしれない
- ノーズを長くするのは、圧をかけられる長さを増やしてコントロールできる範囲を広げるため。板を硬くするのは、前振りで落ちたパワーを補うため
- ツインチップに前振りでちゃんとターンできる人は、コントロールができているという意味で本当に上手い
- 姿勢が作れないのは意識の問題とは限らない。椅子に座れるのに滑ると膝が曲がらないなら、その原因のほうを見る必要がある
- 「膝を曲げろ」で終わる指導、「練習量が足りない」で終わる指導は、原因に触れていない
- 倒れるだけでは曲がりが弱い。板を立てて曲げることで、体が起き上がってくる
- ガガガが出るのは、今の雪とセッティングの限界の合図。ゼロにするより、出る手前を把握するほうが中身がある
- 綺麗なバーンでしか練習しないと同じところに留まりやすい。ただ、たまの休日を楽しく滑りたいなら、それはそれでいい
- 1回か3回教わって滑りが変わらないなら、コーチを変えるのも選択肢
自分の場合はどうなのか
ここまで書いてきたことは、あくまで一般的な話です。
実際は、体つきも、道具も、滑ってきた時間も人によって違います。自分の場合はどうなのか、どこから手をつければいいのか。個別に見てほしいという方は、レッスンをやっています。下のどちらからでも受け付けています。
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