ブーツを履いた瞬間、つま先が当たる。
滑っているうちに慣れるだろうと思って、そのまま1日過ごす。リフトに乗っているあいだは足を投げ出して、降りたら少しだけ楽になる。夕方にブーツを脱いだとき、正直ちょっとほっとする。
でも、これくらい普通だと思っている。ブーツはきついものだと聞いたことがあるし、痛いからといって滑れないわけじゃない。だいたい、足が少し痛いくらいで滑りが変わるわけがない。
そう思ったこと、ありませんか。
僕もその感覚は分かります。痛みは自分の問題で、道具の問題ではない気がしてしまう。だから誰にも言わないまま、毎シーズン同じ足で滑ることになる。
今回は、その「これくらい普通」がひっくり返る場面を見たので、その話を書きます。
「足が痛いくらいで、滑りは変わらない」と思っていた
動画のなかで、はっきりこう言っている場面があります。
ブーツで足が痛いくらいが、別に回転数は変わらないだろう、と思っていた、と。
これ、けっこう正直な感覚だと思うんです。足が痛いのはただの痛みであって、滑りのクオリティとは別の話。多少痛くても、うまい人はうまいし、下手な人は下手。そう切り分けてしまう。
しかも本人はそのあと、「めちゃめちゃ馬鹿にしてたから」とも言っています。ブーツの当たりを見てもらうという行為そのものに、最初はあまり期待していなかったわけです。
その状態から始まって、最後には「変わりそうな気がしてきた」に着地する。動画の流れとしてはそれだけなんですが、その途中で出てくる言葉が、けっこう身に覚えのあるものばかりでした。
「きつい」の中身を、言葉にしてみる
まず、どうきついのかという話から始まります。
中敷きを抜いても、まだ詰まっている
サイズは26。去年はフラックスのブーツが履けていた。ところが今年、中古で買ったものは、中敷きを抜かないと痛い。つま先がすごくきつく感じたので、抜いた。
それでも、今もきつい。詰まっている感じがある。
さらに、指を下に向けると、より詰まる。
ここで面白いのが、聞いている側の反応です。「こんなやつ今まで何人も見た」というような余裕がある。はいはい、それね、という感じで話が進んでいく。つまり、そんなに珍しい状態ではないらしいんです。
自分だけの特殊な悩みだと思っていたものが、見る人から見れば「よくあるやつ」でしかない。これは少し救われる話でもあります。
「作らないと履けない」
会話のなかには、インソールからはみ出す、という話も出てきます。
そして出てくるのが、「作らないと履けないってことね」という言葉です。
抜くとか、我慢するとか、そういう調整の範囲ではなくて、そもそも合わせないと履けない足の形がある。そういう前提で話が進んでいく。
僕はここで、けっこう考えさせられました。市販のブーツをそのまま履いて、痛かったら自分の足が悪いと思ってきたけれど、そもそも「そのまま履けること」のほうが前提ではないのかもしれない、と。
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合っていないことは、履いている本人には見えない
ここからが、この動画の核心だと思っています。
変わったあとに、はじめて分かる
調整そのものは、あっという間だったようです。「一瞬の出来事でした」という言葉が出てきます。
そのあとで、足の裏はどうですか、おかしいところはありますか、と聞かれる。
返ってきたのが、右足でした。
そして、その違和感の説明の仕方がかなり独特です。ロボットの足みたいな、ここにローラーブレードがついている感じ、と。良いとか悪いとかではなくて、とにかく違う、という言い方をしています。
ここが一番大事なところだと思うんですが、続けてこうも言っています。
さっきまで、違和感はなかった、と。
つまり、合っていない状態のときには、違和感として自覚されていなかったわけです。変えられたあとになって、はじめて「あ、こっちは違う」と分かる。
これ、けっこう怖い話です。自分の足の感覚を基準にして「別に問題ない」と判断していても、その基準自体がずれている可能性がある。ずれていることは、ずれていない状態を知らないと分からない。
そのあとの感想も、いくつか出てきます。
こっちのほうが低く感じる。地面に近い感じがする。柔らかく感じる。足首の動かし方、使い方はこっちのほうがナチュラル。そして、右足と左足の動きが全然違う。
どれも、あとから言葉にされたものです。事前には出てこなかった感想ばかりです。
外から見ると、動きが違う
もうひとつ、見ている側からのコメントもあります。
動き的には無理をしている、力いっぱいやっている感じがする、という表現が出てきます。そしてもう片方については、めっちゃスムーズに見える、と。
本人が「違和感はない」と言っている状態でも、外から見ると、力の入り方が違って見えている。
僕はこれ、滑りの話でもまったく同じだなと思いました。自分では普通に滑っているつもりでも、映像で見ると全然違う。感覚は、けっこう簡単に嘘をつきます。
だからこそ、足まわりみたいに一日中つけっぱなしのものは、自分の感覚だけで判断しないほうがいいのかもしれません。慣れは、感覚をどんどん基準化していってしまうので。
この記事の内容は、上の動画で話したことをまとめたものです。声のトーンや実例も含めて聞きたい方はこちらから。
「馴染んでるから大丈夫」も、確かめてみないと分からない
動画のなかには、こういう発言もあります。
自分のブーツは完璧だと思っている。しかもこれは1年入って、もうめっちゃ馴染んでいるやつで、あまり不具合はない、と。
これ、たぶん多くの人が持っている感覚だと思います。最初はきつかったけど、履いているうちに馴染んだ。だからもう大丈夫。
でも、馴染んだというのは、ブーツが自分の足に寄ってきたということでもあるし、自分の足がブーツに寄っていったということでもあります。どちらが起きているのかは、自分では分からない。
会話のなかには、7年くらい使っている、ガムテープで、といった話も出てきます。長く使っている道具ほど、その状態が当たり前になっていく。
不具合がない、というのは、不具合を感じなくなった、と区別がつきません。
滑り方より、セッティングで1日が決まるという人の話
動画の後半は、ゲストの谷口たかとさんへのインタビューになります。ここも、道具の話として読むとかなり面白かったです。
肩書きは「ゲーマー」
まず、肩書きは何ですかと聞かれて、返ってきた答えが「ゲーマー」でした。
一番やっている時間が長いのがそれだから、という理由です。スノーボードよりも確実にゲームをやっている時間のほうが長い、本気でゲームが好きだ、と話しています。
かっこよさを求めている感じがしない、と言われた流れでは、昔はかっこいいかどうかが全盛期だったから、その時代のライダーが好きだ、という話が出てきます。
そしてルーツとして挙がるのが、マックダウンプロダクションの「ストンピンググラウンド」というビデオです。それを見て「うわ、すげー」と思い、この人たちと同じ場所で滑ったらどういう感じなのかな、という興味があって、スノーボードを続けてきた。そういう話をしています。
山に行く前に、その日のセッティングを決める
好きな滑り方は何ですか、何の瞬間が楽しくてやっていますか、と聞かれたときの答えが、僕には一番刺さりました。
滑り方というよりも、今はセッティングにはまっている、と。
しかも、滑ってから決めるのではなくて、山に行く前に決めるそうです。今日の気温はこうで、昨日雪が降っていて、という条件から、じゃあ今日はこのセッティングにしよう、と先に組み立てておく。
そして実際に滑って、ワンターンした瞬間に「これ」となる。そこに一番気持ちよさを感じる、という話でした。
板選びも同じで、今日は柔らかい雪だからこの板で、このセッティングで、という決め方をしている。
パターンも、グラトリも、ジャンプも、それに対しては「おまけ」という言い方をしています。セッティングがうまくいったかどうかで、いい1日だったかが決まる、と。
ラジコンが好きなところとも繋がっている、という話も出てきます。パーツを組み合わせて、という感覚です。
滑りの話をしているようで、ずっと道具の話をしている。この人にとっては、道具を合わせることそのものが競技みたいになっている感じがしました。
ブーツの当たりを見てもらったあとの反応も、そう考えると自然です。ブーツで足が痛いくらいでは何も変わらないと思っていた人が、変わりそうな気がしてきた、と言い、そのあと「早く滑りたいって感じですもんね」と返される。
道具が変わると、滑りたくなる。それはたぶん、順番として正しいのだと思います。
まとめ
- ブーツのきつさや痛みは、「これくらい普通」と思って我慢したまま何シーズンも過ごしてしまいやすい
- 動画では、ブーツで足が痛いくらいでは回転数は変わらないと思っていた人が、最後には「変わりそうな気がしてきた」と言っている
- 中敷きを抜いても詰まる、インソールからはみ出す、といった状態に対して「作らないと履けない」という言葉が出てくる
- 合っていない状態のときには違和感を自覚できず、変えられたあとで「さっきまで違和感はなかった」と気づく場面がある
- 調整後の感想として、低く感じる、地面に近い、柔らかく感じる、足首の使い方がナチュラル、右足と左足の動きが全然違う、といった言葉が出ている
- 見ている側からは、無理をしている・力いっぱいやっている、もう片方はスムーズに見える、という違いが指摘されている
- 「馴染んでいるから不具合はない」という感覚も、比較してみないと確かめようがない
- ゲストの谷口たかとさんは、滑り方よりもセッティングにはまっていて、山に行く前に気温や雪の条件から決め、ワンターン目の「これ」が一番気持ちいいと話している
自分の場合はどうなのか
ここまで書いてきたことは、あくまで一般的な話です。
実際は、体つきも、道具も、滑ってきた時間も人によって違います。自分の場合はどうなのか、どこから手をつければいいのか。個別に見てほしいという方は、レッスンをやっています。下のどちらからでも受け付けています。
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